attention: 黒バス 赤×黒 暗い
ユシロ名義のアカウントで掲載しているものです。(Pixiv=6661908)
以下は当時の公開内容をそのまま掲載しています。
Edera,
│2013 赤黒
アイスブルー。
いや、深い水色。
限りなく透明度の高い群青。
紫色の頭の彼は甘そうだとか言っていたけど、
僕はその色を見るたびに、ああ、ひどく苦そうな、と思う。
甘いわけがない。
曖昧なイメージではなく、自然と沸き起こる感触として、唾液が口腔を満たしていた。
その苦味は不快だと思えば不快しか呼ばないが、たとえばそう、愛しさや甘美な心地さえも感じさせてくれる甘やかな刺激にも変わるのだ。
脳を溶かしていくような、それでもって全く逆の覚醒にも近しい刺激。
僕はそれを言葉にする術を知らない。
【 Edera, 】
いつもそうだ。
好き好んで人目を避けてこんな暗い倉庫に隠れているわけではない。
「よくもまあ、そんなに無感動に貪れるものだな。」
背後から低い声がかかった。
どうやら近づいてきてどうにかするつもりではないそうなので無視して最後のひとかけをプッ、と吐き出す。
口の中がチクチクする。どうにもこの感覚だけは嫌で堪らない。飲み物のペットボトルは部室のロッカーに入れたままだったし、心地よいとはいかない。
手の甲で口元を拭っていると彼がハンドタオルを差し出してきた。
「いいのか?」
「制服につかないうちにそれをどうにかするのだよ。」
僕の影で見えなかったろうに、手を伸ばした時に一瞬彼の体がこわばったのを耳の近くで感じた。
それでも声の平静さを保つ彼は僕を怖がっているわけでも嫌悪しているわけでもないのだろう。
言うならば、憐憫というところだろうか。
「…まるで獣なのだよ」
「そう見えるか?」
返事は無かった。
僕はふ、と声を漏らして答えた。
窓ガラスに映った姿をさっと見て不自然な汚れがないか確認する。
獣。獰猛に土を這いずる赤い目がイメージされた。
「俺が獣なら、あいつはなんなんだろうな。さしずめ獲物か?」
受ける声はない。
僕も望んでいるわけではないので歩みを止めない。
放課後の廊下は西日が差し込んで密度の高い橙色に染まり上がっていた。
口腔内にはまだ細かい毛の塊が残っているのだけが不快だった。
「どうもウサギの毛は柔らかくていけないな。だがネズミはよくない。どうしたものかな。」
緑間は無言で後ろについて歩く。
まだ血の匂いが残っているのだろうか。[食事]をしたあとの鼻はどうにも臭いに麻痺してしまって自分では分かりかねる。
「で?どこにいけばいい?」
「…図書室だ。」
分かった、と軽く返事をして突き当りの階段を目指した。
踊り場の窓からいっぱいの光が階段と赤司と緑間に浴びせる。
「いつまであいつをつないでおく気だ。」
「…つないでなどいないさ。彼は限りなく自由なはずだから」
「信じろと?」
感情を押さえつけて深く落とし込まれた緑色が眼差しを刺してきた。
彼はきっとあの子のことを、そして僕のことを思って言うのだろう。
僕が視線に力をいれるとゆらりと迷いに歪んだ。
きっと彼の中で僕の行動は異常で、黒子はそんな異常に巻き込まれただけの可哀想な奴で、そしてその心配はすでに進行中の問題になってしまっている。
だが聡い彼は分かっているのだろう。異常なのは僕も、黒子も、彼自身も、この状況を軽蔑しながらも囲み続けている他の彼らも同じ。これで正常なのだとどこかで思ってしまってる僕らは異常になりきれない。
枠の外から眺めた気持ちになっているだけで本当は自分もその中にいるのに、と絵面を想像すると少し笑えた。
踵を返し一応声を掛けた。
「ここでいい。明日の練習は出る。」
返事は、無かった。
ひと呼吸おいて、図書室の引き戸を開けた。
カラカラカラ、という音に、部屋の奥の薄い影が顔を上げた。
ひたり、と呼吸が楽になる。
感覚が抜けて、深い水に沈んだような。
不思議と灰色だった景色が落ちるように色を取り戻すのだ。
一歩一歩彼のいる場所へ足を動かす。
彼はただ赤司がたどり着くのをじっと待った。
椅子を引いた彼の足元に膝を付くと窓からの光を背に受けた彼の表情が少し和らいだように見えた。
そう、今日こそは言葉にして伝えよう。
唇を湿らせ、一言ずつ含むように並べた。
「テツヤ…僕はお前のことが好きなようなんだ。まだ、実感はないけど、それ以外に僕には言葉が見つけられなくてね」
白い輪郭を震えそうになる手で包みこむ。
あたたかい。それに、テツヤの感触だ。
唇、頬、目尻、まつげの淵まで指で触って彼の顔の皮の感触を味わう。
胸のそこからため息が漏れる。
黒子が感情を読み取らせない表情で少しだけ首を傾いで、ゆっくり睫毛をしばたいた。
「ボクも、好きだと言ったら?キミの、ことを。」
じわり、と口の中に苦味のある唾液が溢れてきた。
そして僕は気づくのだ。
ああなんて幸せな、残酷な時間なのだろう。
「そうしたら僕がお前を食べてしまうよ。」
「それは、…素敵ですね。」
水色を纏った彼の、首に手を掛けた。
彼はいつもの色で、でも穏やかに赤司を見つめていた。
食べてしまいたい。
揶揄でも想像でもなく強烈な欲望が喉を、舌の付け根を、痛く刺した。
まずは、そうだ、黒子の体温を感じたい。
体中余すところなく舐って、ふやけた指先から。
それとも、一気に首筋に歯を立ててみようか。
肉を潰し血が舌をめぐり唇に滴り喉を滑り落ちていく感覚を思い出して脇腹がぞくりと戦慄いた。
いや、ウサギでは駄目なのだ。
この目の前にいる彼でなければ。
赤司の色違いの両目からボタボタと涙のようなものが溢れ出した。
次々と赤い頬を流れ落ちていく
違う。好きだ、なんてそんな言葉で汚したくなかった。
愛してるなんて言いたくない。
しかしそれ以外の言葉も見つからない。言葉にすることができない。
深く引き裂く爪痕のような、そんな汚れ切った表現でこの感情を溢れさせるのは身を刻まれるより辛く痛いものだが、それでも、
「…急がなくてもいいんですよ」
それでも、言葉で伝える以外に無難な愛しかたなどできない。
そうでなければ黒子を殺してしまうかもしれないと分かっても。理解したはずでも、熱く焦がれるような心臓はキリキリと自
身を締め付け今度は自分を殺しにかかってくる。
自分を助けるために黒子に汚い愛を投げつけ、それによってまた自分が傷ついていく。
そして黒子は、それを両手で包み込み飲み込んで、微笑むのだ。
赤司を救うものなのか、殺すものなのか、それは分からない。
ただ、赤司はその微笑みを前にどこか少しだけ救われた気持ちになるのだ。
自分の手で彼を汚してしまう背徳感はすでに表面を覆うだけのハリボテに過ぎないことを、浮遊する意識の中でいつも感じていた。
それでも、手を伸ばすことをやめることはできないのだ。
呼吸するために胎児が母親の体内で酸素を求めるように。
苦しくて、苦しくて、求めて、与えられてもまだ苦しくて。
顎の先から雫が落ちていく感触にすら開放を感じる。
「う……ぁぅ…」
声が、枯れていく。
まどろんで沈んでいく。溺れていく。
変わらない表情で黒子がまたまばたいた。
「おやすみなさい、赤司くん。」
意識がふつんと途切れた。
体温だけが優しかった。
end,
半熟腐敗気味赤司くんと偽善聖母な黒子くん。
どっちも報われないけど幸せそうだしいいかなって。