attention: 黒バス 赤×黒 暗い
ユシロ名義のアカウントで掲載しているものです。(Pixiv=6661908)
以下は当時の公開内容をそのまま掲載しています。

 


黒子くんと赤司くん。

│2013-2014 赤黒
 大学生の赤司くんと保育士の黒子くんが一緒に住んでる話。


目次

予告編
01.僕と彼の関係
02.僕と彼の約束事
03.僕と彼の部屋
04.ボクと彼のための月曜日
05.ボクと彼のための部屋
06.ボクと彼のための嘘
07.〇〇〇〇〇〇







ー予告編


「あかしくんあかしくんあかしくん大好きです今日はちょっとセクシーにシャツを第二ボタンまで外してみたんですがどうですかあかしくん。」
「なんだい黒子。また今日も寝癖がひどいな。」
「冷静というかつくづく君のツッコミどころはちょっとズレてますね。でもそんなところも好きです!」
「ありがとう。」
「レスしづらい素直なお返事も美味しくいただきました。と、いうことで2、3、伺いたいんですが、キミのスリーサイズを上からどうぞ!」
「スリー……え?」
「B・W・Hです。さあどうぞ!」
「すまない黒子、僕はお前が何を言っているか理解できなかったんだけど、ワンモア。」
「カタカナな英語を会話に織り交ぜてくる赤司くんもかわいいです!仕方ないですねそんな赤司くんに免じてもう一回…。君のスリーサイズを教えてください。」
「……人のスリーサイズを訊く前に自分のスリーサイズから言うのが礼儀とか配慮とかいうものじゃないか?」
「いやですね赤司くん、ボクは男ですよ。」
「僕もお前と同じ性別だったと自負しているんだけど。」
「は!?何言ってるんですか赤司くんは赤司くんですよ!オスメス赤司くんです!」
「お前が何を言ってるんだ!なんだそれ僕は新種の生命体かなにかか!?」
「赤司くんは赤司くんです。生物ジャンル的にはまあ新しいですが仲間ならいっぱいいますよ、ほら、ネットの海に。」
「それは暗に僕を厨二病キャラに持っていこうとしているよな。とにかくスリーサイズは無しだ。というか僕も知らん。」
「おおっとではボクが測って差し上げますね!」
「やめろ!さてはそれが狙いだなお前!」
「バレてしまっては仕方ない。では次の質問です。赤司くんは湯豆腐が好きだと公言していますが本当のところどうなんですか?どこが好きなんですか?ボクより好きですかそうですかやっぱり赤司くんはボクより豆腐ですか。ボクもわりと色白で儚げなイメージだって十二分に兼ね備えていると思っていましたがまだまだ赤司くんのナイスなバディのプロポーションを維持する偉大なるヘルシーさにおいては豆腐様に遠く及ばないようですね残念です。ハイどうぞ。」
「待て、今のは質問か?」
「:豆腐とボクどっちが好きですか。」
「豆腐。」
「ツンご馳走様です。今日の晩御飯はあったかいお豆腐を大根おろしとカリカリのジャコでいただきましょうね。では最後の質問です。」
「しょうもない質問だったら答えないからな。」
「ボクと住んでいて幸せですか?」
「……。まあ、わりと幸せかな。」
「そうですか…そうですよねやっぱりそうなっちゃいますよねああもう赤司くんてばこんな公の場所でそんなこと言ってしまってでも好きですバッチリですボクらの周りには愛のミラーシールドが」
「…黒子、そろそろ買い物にいくけど、なにかあるか?」
「あ、ボクも行きます。今日ティッシュが安いんで買っときましょう。」
「味噌はまだあったかな。」
「大丈夫です。いきましょうか。」

ばたん。

end.



01.僕と彼の関係

自転車の調子が悪い。

西日はさっき沈んだばかりでまだ道が明るいのが救いだった。
ギシギシ鳴る自転車を押してアパートの前の緩やかな坂を上り、駐輪場に自転車を止める。集合ポストをチェックし、二階の部屋へ上がる。
紺色の壁の小奇麗なアパートは家賃のわりに広く、駅からは少し遠いが学校や商店街からはさほど離れていないため、自転車さえあればなかなか快適に生活できるところにある。
と、言ったところで実は赤司の家ではないのだけれど。

「ただいま。」
「あ、おかえりなさい。赤司くん、今日は早かったですね。」

無表情を少しだけ緩めて黒子が振り返った。
キッチンのテーブルの上には今日の夕餉が準備されている最中だった。

「今晩はアスパラと鶏肉の炒めたのとおろし納豆と明太子です。今お味噌汁温めてるんで、着替えたらご飯よそっておかず並べてください。」
「わかった。」

最近は行き帰りの自転車を漕ぐだけで軽く汗ばむ気温になってきた。
そういえば帰り道にすれ違った家路を急ぐ小学生たちは半袖シャツに半ズボンだった。
それは少し気の早いことだが、そろそろ夏物の衣類を引っ張り出さなければ。
上着をハンガーにかけ、鞄を部屋において、まずは食卓の準備をと冷蔵庫の扉に手をかけたところで黒子があ、と声をあげた。

「そうでした。赤司くん、さっき洗濯物を取り込んだときついでに洗濯物たたんでおきました。ついでに衣類ケースも失礼して夏物を手前にだしておきましたよ。」
「勝手に失礼するな…。ありがとう。」
「いえいえ。あとそれからいくつか靴下が穴あき予備軍だったのでつくろっておこうかとそこに並べてあるのですがまだ履きますか?」
「……ああ。いや、自分でするからいい…。」
「そんなわけにはいきません。赤司くんの白魚のごとき指が傷ついたらしばらく後悔で胃痛に悩まされるのはボクなんですから。」

黒子はまばたきこそすれどいつもの無表情と落ち着いた口調で宣った。
一瞬。
一瞬だけフリーズした脳を軽く頭を振ることで再起動させ、何事もなかったかのように食器棚を開ける黒子をこっそり睨めつける。

不思議な人間だと、赤司は黒子をそう評価していた。
中学で出会い仲間として同じコートでプレイした。高校ではお互いの勝手な価値解釈で憎み憎まれるような関係を経てからは付かず離れず知人の間柄に落ち着いた。
大学に進学して一年が経っていた、そんな時だった。偶然夕方のスーパーで肩を掴まれたのは。
『豆腐は明日になれば三割引です、赤司くん。』
それから二年が経つ。
気づけば黒子と暮らしている自分がいた。
良くも悪くも彼は不思議な人間なのだと、赤司は自分をそう納得させた。

「そうそう、赤司くん。」
取り皿を並べていた手を止めて黒子が振り返った。

「明日は牛乳とめんつゆの安い日なので帰りによろしくお願いしますね。牛乳は2本ですよ。」
「………ああ。」

何もかもが自分の思い通りになるような現実なんて無い。
無論、自分の思うように事を運ぶ術ならまあ身に付けている。
だが、しかしだ。
なんとも。今の自分を中学高校時代の自分が見たらどんな顔をするだろう。
そして今の生活を実はそんなに不快に思っていない自分はどんな顔をしたらいいのだろう。
赤司はこっそり頭を抱えた。

:赤司征十郎と黒子テツヤはルームシェアをしている。



02.僕と彼の約束事

スターバ×クスコーヒーなんて女子大生がお洒落ついでにいくような店だと。
失礼な話そう思っていたのだが、チェーン店にしてはなかなかこだわりがあるものだと適当に頼んだコーヒーを啜りながら店内を見回すと、メガネをかけた長身の男が注文に入るのが見えた。

土曜日。
緑間が地元に帰ってきていると聴いたので連絡してみると会えることになった。
互いの近況をパラパラと話し終えた頃、緑間が着信したばかりのメールを開き、ため息をついた。

「なんだ、僕と話すのは不満か?」
「そんな命知らずなこと言えるわけないのだよ。」

僕が軽く笑って言うとくいとメガネのブリッジを押し上げて眉根を寄せた。

「夜、高尾が飲み会に参加するから人数合わせに来いと言っている。」
「あまり飲むなよ。そういうのは厄介だ。」
「飲まずにやってられるか。」
「発言がまるで企業戦士だな。」

緑間の口の端に力が入る。
あまりからかうとこの男はすぐにへそを曲げるのだ。

「…うちの同居人ももう少し分かりやすい人間だと良かったんだがな。」

思わず呟いた。

「その黒子は?」
「仕事だよ。帰りに買い物を頼まれている。」
「…最近のお前を見ていると妻に縄を引かれる夫の図が目に浮かぶのだよ。」
「なんてことないさ。料理を作ってくれるのはありがたいし、なにより黒子は僕を愛してはいないからな。」
「それを肯定されたらまずお前の頭を疑うのだよ。それに、未だに俺は理解できないんだが、お前たちが同居していることについて。」
「理解もなにもないだろう。一人暮らしの元チームメイト男二人、恋人も暇もなし、たまたま家が近いもんだから強いて言うなら気の迷いってとこかな。」
「わかりにくい人間なのだろう?」
「扱いづらいが扱われる心配はないからな。」
「茶化すな。」
「事実さ。純粋に彼との生活はなかなかに快適だよ。まあ、もう少し表情筋が動いてくれたら言うことないけど。」
「俺はあいつとは続かん。お前はよくやるのだよ。」
「遊びだと思えば些細なことも気にならない。」

黒子は赤司の思う通りにならない人間の数少ない一人だ。
気まぐれなくせに頑固で、根拠にこだわるわりには直感支持者。
ルームシェアしてから彼は特に物静かな風体の青年だと印象をもつようになった。
今の彼が、なにかを強く思うことはあるのだろうか。
そう思わせるほどに純度の高い不透明さをにじませる彼。
だがこちらにはその向こう側を干渉するするつもりはないし、逆もまた然り。
おそらくあちらもその体であろうし、どんなに表面上で必要以上の親しさを演じていても結局は一時のお遊びに過ぎないのだ。

「昔のお前とは随分変わったものだな。」
「嫌だな。何も変わっちゃいない。」
「そうではないのだよ。お前の黒子への態度が、だ。」

なるほど、この男はなにかを分かったつもりらしい。

「前言撤回だ。変わったのは黒子で、僕はずっと変わらず。そういうことにしておけ。」

カップも空になった。そろそろスーパーに向かうか。
と、ぐい、と腕を掴まれた。

「?、なんだ、緑間。」
「振り向くな。面倒だ。」
「知り合いか?」
「お前は本当に鈍いのだよ。」
「自分に関わりない人間の感情をいちいち気にする方が僕は理解に苦しいな。」

しばらくするとクリームのたっぷり乗ったカップを持った若い女二人が横を通り過ぎていくがてら横目で僕の顔を品定めするように眺めていった。
なるほどそういうことか。
緑間が腕を離した。
店内の時計に目をやるとそろそろ16時に差し掛かるところだった。

「じゃあまた来週。」
「?、来週はあちらに戻る予定なのだよ。」
「ああ。だが興味深い特別講義がそちらの大学で行われるらしいからな。」
「そういうことか。なら講義後、学内のカフェに。コーヒーはオススメしないのだよ。」
「話のネタに乗ってみるか。緑間、今日は楽しかったよ。」

声をかけた相手は、メガネをくいと押し上げ目を逸した。

「思ってもないことを。」

:赤司征十郎は嘘をついてはいけない。



※飲酒表現ありますが、このシリーズでは登場人物は全員成人済み(内容は7~9月設定、黒子21歳)です。

03.僕と彼の部屋

初めて入った。

「敦、お前がばらまいてる魔法の粉のせいで僕は明日、自動的に掃除機を掃除する担当になるんだけど。」
「は?何言ってんの赤ちん。魔法の粉じゃなくてハッピーパウダーだし。」

そう返しつつ変な作りの部屋を見回す。
縦長の小さな部屋だが屋根の形に合わせて天井がなだらかに高くなっていて窮屈に感じない。

「なんかいいね。赤ちんの部屋。」

もともとは黒子の部屋だと言っていた。
以前は黒子の一人暮らしで、どういったわけか赤司がそこに後からお邪魔する形で現在に至ると。
ボリボリ食べ終わったスナック菓子の袋をゴミ箱に押し込む。

「ビールで良かったか?」
「うん、ありがとー。」

タブを起こした缶を受け取ると赤司も同じように缶を持って掲げた。
コン、と缶を合わせ中の液体を煽る。
事前に作りおいてあったのか、低いテーブルの上には、手羽の唐揚げともやしのナムル、茹でた枝豆、それと小さく丸めたイモもちのようなものが取り皿とともに並べられている。
もちもちしたそれは柚子胡椒の風味がして美味しかったが、ビールには少し合わないような気もした。
赤司が足りなければスナック菓子がまだあるからと言ったが、アルコールがあるならと首を横に振った。
おそらくこの料理たちも赤司が作ったものではないのだろう。
ビールの缶を咥えたまま部屋の東側にひらけた網戸の引き戸を開ける。
正方形のベランダへ出て左手には黒子の部屋が見える。

「こら、人の部屋を覗くんじゃない。」
「ていうかカーテン閉まってるから見れないし。」

黒子の部屋につながるガラス戸の端を爪でかんかんとつついてみるが、部屋の電気は消えているし鍵も空いていないようだった。

「黒ちん寝てんのかな。」
「いや、帰ってきてないと思うけど。」

時計の針は20時を回っている。

「保育園のセンセイって忙しいんだね。」

まあ、紫原の知ったことではないが。
黒子の部屋は興味があるが内心黒子がいないことに安堵していた。
赤司に呑まないかと持ちかけ、じゃあ僕の部屋で、と誘われた時、一瞬返事にためらってしまったのはきっと聡い彼にはバレバレなのだろうけど。
決して嫌いとか苦手とかいったものではないけど、どこか考えの読めない元チームメイトはそれでもいつもなにかしようとしているのがみえみえで、その不器用さの部分が少し気に入らない。そう思うことにしている。

紫原がベランダに落ち着いたのを見て、小皿に料理を取って赤司がベランダ口に腰掛けた。
あまり口にしないさっぱり味のビールを飲みながら、それでも彼の皿の上にはあの柚胡椒味のもちもちは乗っていない。

昼間の熱を吸った生暖かい風が肩まで伸ばした髪をまばらにそよいでいく。

「…いい風。」

:二つの部屋はベランダでつながっている。



04.ボクと彼のための月曜日

「こっちッスよ!」

布団もしっかり干してきたし夕飯の献立も決まったし午後は英語の予習でもしようかと考えていたら、中学時代のチームメイトからお誘いのメールがきた。
(ちなみに今日の夕飯は鮭としめじのホイル焼きときんぴらごぼう、昨日の残りのきゅうりの和物、高野豆腐のお味噌汁と雑穀ご飯。)

家から少し足を伸ばしたビル街。
清潔感のあるおしゃれな雰囲気のカフェに入ると懐かしい顔がこちらに手を振ってきた。

「久しぶり!黒子っち変わってないっスね。」
「お久しぶりです。黄瀬くんもあいかわらずですね。」

自らも専門学校に通いながらモデルを続けている彼は黒縁メガネで隠れた顔つきの大人っぽさは増したが人懐っこい笑顔は昔から変わらない。
店員にアイスティーを注文し椅子を引く。

「今日はこれを渡そうと思って。」

黄瀬がおもむろにテーブルに載せたのは淡い赤色と水色の二つのパッケージ。
開けて、と促され、赤い方のパッケージを紐解くと入っていたのは薄いリネンのストールだった。

「プレゼント。この間の撮影でスタイリストさんから教えてもらったんス。黒子っちに似合いそうだなと思って。ほら、俺も色違いのやつ見つけて買っちゃった。」

そう言いながら、ネイビーのジャケットの首から彩度を抑えた黄色のストールを見せた。
明るい髪色の彼にその黄色はよく似合っていた。

「ありがとうございます。でもいいんですか?」
「いいのいいの、オレのオススメって事で。三色あったからすげー迷っちゃって。二つもいらないっていうなら好きな方選んで。」

黄瀬が並べた赤色と水色のストールは鮮やかでは無いが自然な色味で手触りも柔らかく軽い。
どちらも色は明るすぎず、黒子の髪色に邪魔されない色合いなので普段は使わない小物だが服にも合わせやすそうだ。
今日の黒子の服装は、生成りに細い白のストライプの入った襟シャツにジーンズ。黄瀬の巻いているように水色のストールを襟周りに緩く一周させて巻いてみると彼が似合うと微笑んだ。

「ボクには赤色は少し派手かもしれませんね。こちらのほうだけ貰っていいですか?」
「あ、それならこっちは赤司っちにあげて。ちょうどそれぞれ髪色にも重なるし、お揃い。」
「赤司くん、ですか。」

赤司はいつもシンプルな襟シャツにチノパンやデニムを合わせて着ている。
以前静電気防止ブレスレッドを着けていたのを見た以外小物は帽子すら身につけない。

「あの人、普段こういったものは使わないんですよね。」
「まあ本当に使わなかったら返してくれてもいいし、こういうのって一枚あっても便利だから邪魔にはならないと思うっスよ。」
「せっかくですし渡しておきますね。きっと似合うと思いますよ。」

受け取ったストールを丁寧に畳み、パッケージに元のように戻すとシワのよらないようにカバンに仕舞った。
それを見届けて黄瀬がまたふふっとわらった。

「赤司っち羨ましいっス。」
「…ボクなにかしましたか?」
「黒子っち、なんか最近ますます大人っぽくなってきたっスよ。なんていうか芯が強い大人っていうか。」
「赤司くんと住んでると大人っぽくなるんですかね?」
「赤司っちのために、でしょ。」

氷をいじりながら黄瀬が言う。

「赤司くんのため?」
「黒子っち、無意識にあの人を擁護しようとしてるんじゃない?特別な意味なんかなくても、どこかで赤司っちを助けてあげたい、守ってあげたいって。オレはそう思ったんスけど。」
「黄瀬くんはロマンチストですね。」
「あれ、違うんスか?」

カロン、と溶けた氷が軽い音を立てた。

「あの人のためになっているかなんて、あの人にしか分からないでしょう?」

:彼のためのボクでありたいがためにおそらく今ここにいる。



05.ボクと彼のための部屋

桃井さつきの趣味は少しばかり世間一般的でない。

ボクの財産とも言える本棚とその中身たちはそのときどきあらゆる経緯を辿って今やそのジャンルも厚さも多彩、いや、雑多と言ったほうがそぐあうか。

「…あった。」

専門書ハードカバーのその本は若い女性には本来薦めるものではないのだろうが、当の彼女が探しても見つからないと愚痴っていたものでもある。
あまりに偏った内容に自分自身論文を書くとき参考程度に開いただけの表紙は褪せることなくいまだかしこまった顔をしている。
ホコリを払うようにカバーをなでていると開け放した部屋のドアから今帰宅したのか赤い髪の彼が顔を覗かせた。

「ただいま」
「おや赤司くん早かったですね。まだご飯の準備してませんよ。もしかしてボクが恋しくなっちゃいましたか?」
「今日の夕飯は?買い出しがまだなら僕が行ってくるけど。」
「買い物デートのお誘いならありがたいのですが残念ながら今晩のお惣菜は残り物一斉処分キャンペーン予定なので、あっでも赤司くんがどうしてもというなら仕方ないですね今考えますなにが食べたいですか赤司くん。」
「決まっているならいいじゃないか。分かった。部屋に戻るから、なにか本を借りてもいいかな。」

ええどうぞもちろんです赤司くんのためならば以下略。
赤司くんはお邪魔するよと部屋に足を踏み入れた。
最近、以前のように苦笑いを浮かべたり居心地悪そうに目をそらしたり眉根を寄せたりしなくなった彼にボクは瞼を寝かせるしかない。

「その本は?」

赤司が黒子のもつ本に目を向けた。

「おや、気づいちゃいました?これはですね赤司くん、赤司くんが帰ってくる前に赤司くんのベッドで読んでから赤司くんにお貸ししようとふと思ったわけなんですやっぱりお目にとまりました?」
「研究書みたいだけど読み物としてもおもしろそうだね。貸してもらえるかい?」
「赤司くんから貸してくれなんて本に嫉妬しそうですよギリィッ、なんてね、はいどうぞ。そういえば赤司くんてたくさん本を読むのに私物のものは教科書以外持ってませんよね?図書館もあまり出入りしてないようですし。」
「買っていたらキリがないし読み物としては黒子の選ぶ本のほうが図書館より面白そうだからね。」

そう言って彼は少しだけ微笑んだので、ボクは思わず次の言葉を忘れかけた。

「いつでも借りに来てください。待ってますから。」
「お前がいない時に失礼するよ。じゃあまたあとで。」

そういうと開け放したドアから赤い髪の彼は自分の部屋に帰っていった。
ボクはやれやれと息を吐き、彼のひどい言葉を腹の中で繰り返した。
タイムリミットを指し示すそれにさあ次はどう抗うべきか。
崩壊はもうすでに起こっている、のかもしれない。

あ、すみません桃井さん。本はまた今度お貸ししますね。

:彼のためにボクはこの世界を維持しなければならない。



06.ボクと彼のための嘘

「あ!」
「ん?どうしたテツ。」
「広島県産蟹身のパックが広告に出ていたのに…買いそびれました…。」

店内の時計は20時半に差し掛かったところだった。
今からスーパーに全力で向かっても間に合う保証はないし生鮮食材で広告の品となれば棚に残っている保証は無い。

「んだよ、ゴーカなもん食ってんな」
「今月は頑張ったんですよ…。だからたまには豪華にしたいじゃないですか…。やっぱり蟹は美味しいですし…。」
「赤司に行かせりゃ良かったんじゃねえの?」
「赤司くんには内緒にしてたんです。ああもう、今日はご飯作る気なくなりました。」
「それこそあいつに作らせりゃあいいじゃねえか。料理ぐらいできんだろ。」
「…同居する際約束してもらったんです。赤司くんは我が家で爪切り・シェーバー以外の刃物を使用する時はボクの監督下でお願いしますと。」
「なんだそれ。ガキかよ。」
「前科がありますし。」

黒子の在学中、同居する前のことだったが、一度騒ぎになったことがある。
赤司が自分の左腕にカッターナイフを滑らせたのだ。
幸いそのときは太い血管を傷つけることはなく赤司もうっかり落としかけただけだと笑ったが、一緒にいた緑間はその腕を見て絶句したそうだ。
注視しなければ気づかなかった、腕を無数に走る赤い線。明らかに“常習犯”だと。
だがそれからすぐに周りが赤司への態度を変えたかといえばはたしてそんなことはなかった。
ただ、青峰は明らかな“ライン”が引かれたことがわかった。
彼と自分たちにではない。彼らとの間に、無数に。

そこまで考えて首に手をやった。だからどうしたんだか。

「ちょっと電話をかけさせてもらってもいいですか?」
「おう。」

元相棒が革のカバーを付けたスマートホンを耳に当て慣れた手つきでコールボタンを触っていくのをなんとなく眺めた。
感情がわかりにくいとか言われている黒子だがそれは表情と存在感の薄さによるものだろう。

「すみません、今日帰るの遅くなります。ええ、お願いします。」

隣で電話越しに言葉を向ける相手は今頃無感情に気のない返事を繰り返していることだろう。
そう思うと青峰は言いようもない気持ちを噛み潰すようにテリヤキバーガーにかぶりついた。

:彼のため、ボクは初めて本物の嘘をついた。



+++

07.彼らの真夜中

赤司くんの目は夜、電気のない部屋の中で時折とても美しく煌くことがある。

二人とも静かな環境を好むものだから、週末なんかは夜遅くまで電気をつけるのを忘れることがある。
午後23時。
アパート前の道路に面した網戸から虫の声と、時々どこかの自転車が走り抜ける音が聞こえてくる。
帰りが遅くなったボクを出迎えたのは真っ暗な玄関と台所。
鍵は締まっていたが彼の靴はあったので寝ているのかと思いもしたが、ごとん、と彼の部屋から何かが落ちる大きな音がして。
彼の部屋は一つの本棚と机とベッド、備え付けのクローゼット以外大きな家具はないため、何かが倒れるというのは思い当たらない。
もしやと思いノックをして返事のないドアを開けると、窓から月が見えるのみの暗い部屋の中、薄手の毛布にくるまったまま赤い頭の彼が床に寝そべっていた。
呼吸をしていないのではと思わせてしまうほど静かに散らばるその赤にはもう見慣れてしまった。
跪き、一瞬ためらって、その髪に触れないように、首の下に手をいれ彼の上身をゆっくり抱き起こしていく。
力の抜け切った体は重く、それでも体温があることに安心する。
投げ出されたいつかの腕の傷は見えなかった。
よいしょとばかりに抱き上げた上体の上で彼の頭がカクンと傾いた。

ボクは思わず目を逸らした。
溢れるそれを、衝撃で目覚めたらしい彼自身は眠い目をこするように指先でさりげなく拭っていった。
彼の体が勝手に流した無機質な涙。
それでもボクの頭はその涙を極めて感情的に受け取ってしまう。

そんな彼のことを抱きしめることもできないまま、そろそろ二年が過ぎようとしている。

「寝ぼけないでください。風邪をひきますよ、赤司くん。」

:ボクはおそらく彼を愛している。



・赤司くん (01.僕と彼の関係)
普通の人間だと自分では思っている。
周りもちょっとチート技持ってるけどまあ赤司は赤司だしね、って感じで流してる。
でも黒子は、赤司がゆるやかに「普通じゃない」状態になっていることに気づいている。

・緑間くん (02.僕と彼の約束事)
一番、赤司の表面的な部分(ちょっとチートで偉そう奴)に寄り添っていける“親友”ポジション。
無関心とも言えるけど、踏み込まない方が赤司のためにもなるのかな、と、黒子とは真逆の考え方。
だから赤司は緑間とは面白おかしく友達でいられるんじゃないかなと。

・紫原くん (03.僕と彼の部屋)
紫原は赤司をそっとしておきたい。
赤司は赤司であって誰かが手を差し伸べることも口を出すことも間違いだと思ってる。
妨害はしないけど余計なことをしようとする黒子を良く思っていない。

・黄瀬くん (04.ボクと彼のための月曜日)
自分の世界が無事なら他人はアウトオブ眼中。
黒子は大事な親友だし赤司くんのこともまあ尊敬してるけど彼らの悩みは自分には関係ないので手も出さない。
黒子くんが弱音を吐いたときはさりげなく慰める。今の環境さえ揺らがなければ問題ない。

・桃井さん (05.ボクと彼のための部屋)
黒子くんが好きだから彼に影響がなければあんまり赤司くんには興味が無い。
黒子くんが何をしようとしてるのかは女の勘で一番理解しているけど自分に対する黒子くんからの態度に変わりはないので傍観してる。

・青峰くん (06.ボクと彼のための嘘)
なにかあるんだろうなーと思いながら、面倒なことには関わりたくない半分今のところは様子見半分。
きづいたときに厄介なことをする危険性があるけど完全な傍観者にならざるを得ない。

*ちなみに06話の黒子くん「夕食の準備なんてすでにしてるに決まってるじゃないですか」
蟹の話の本意はつまり「今日はまだ帰りたくないの」。03話と同じ日です。

・黒子くん (07.彼らの真夜中)
建前人間。赤司のことを好きなのか嫌いなのかはたしてそれは自分の本心なのか単なる偽善心なのか分からずそんな自分から目を背けたいから赤司の世話を焼くことだけに集中することにしてる。
冗談が苦手なのは自覚しているのでわざとらしい言葉を並び立ててそれに“正常な”反応をもらえることで安心してる。

読んでくださった方ありがとうございました。
ブックマーク、評価をくださった方いつもありがとうございます。

今度はあかるいはなしがかきたいです。
また、今回書いている間で長らく期間があきましたので
もし矛盾なんか発見されましたらぜひお聞かせくださいませ。

おわり。


黒子くんが好きなことに気づいた赤司くんと、
それに気づかない黒子くんのはなし。