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刀剣男士と卵とヒトの心というものについて、ある本丸の春に起こったいろいろを描くオムニバス小説。
全5巻予定。(続刊中)

< 仕様 >

ジャンル刀剣乱舞二次創作BL作品
CPちょぎくに
サイズB5
用紙(表紙)竹尾D’CRAFTフラワー129.5k
(本文)マガジンペーパーきなり0.12mm
製本コピー本 (自家印刷+中綴じホチキス製本)
価格各 本体500円
本文小説shiori.
表紙イラストshiori.
装丁shiori.

<アーカイブ>

2022.01.㈠絶望主義初版初版のみ別イラスト表紙・あとがきあり
2022.03.㈠絶望主義2版加筆修正あり あとがきなし
2022.05.㈠絶望主義3版あとがきなし
㈡ツヤツヤと邂逅初版あとがきあり
2022.06㈡ツヤツヤと邂逅2版あとがきなし

< シリーズ >

『カリテスの卵 ㈠ 絶望主義 』

『カリテスの卵 ㈡ ツヤツヤと邂逅』

『カリテスの卵 ㈢ ライトニング一文字』

 

『カリテスの卵 ㈣ 召しませ決算報告』

『カリテスの卵 ㈤ 四月孵化』

< サンプル >

(1)絶望主義 sample
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ミルクパンの中でぐつぐつと湯が沸騰する音をしばらく聞いて、着火つまみを戻す。
用意していた大小2つのマグカップ――粉末状のほうじ茶とゆず茶シロップが入っている――に半分ずつ注ぎ分ける。カップの底でそれぞれの色がお湯と混じってとろりと広がるのを見届けて、もう一度浄水器の蛇口をひねる。この頃には給湯室に入ってすぐにスイッチを入れたオイルヒーターは、小さな空間をほどよく温めていた。
「おはよう」
「……おはよう」
入口横の食器棚の端から、ひょいと顔をのぞかせたのは日向正宗だった。
内番着の赤いシャツの上から濃い茶のフリースのフードパーカーを羽織っていた。もこもことして小熊のようだと思ったが、誉め言葉か迷ったので黙っておいた。
「冷えるね」
彼は口下手な国広にもこうして欠かさず話しかけてくれる。国広は短く「ああ」と応えた。
日向はそのままシンクへ着くと、踏み台を置き、フリースごと腕まくりをして、「つめたい」と言いながら近くのバケツに温水器と水道の蛇口を一緒にひねって中身を溜め始めた。
短刀は、そのほとんどが刀剣男士の見た目に沿わず国広より年嵩ある者ばかりだ。お守りや女性の持ち物として過ごしてきた物語を持つゆえに普段は遊びが好きでやわらかい子供のようにふるまうが、ふとした物言いの雰囲気やら速攻戦や夜戦で能力を振るう短刀には勝てない。彼はその中でも来歴と、年長に見える体躯もあいまって少しだけ大人びた雰囲気を持つ。
「息が白い」
ふと日向が言って、ほう、と息を吐き出した。
国広がちらりと目をやると、日向は特に続ける様子もなく薄暗がりの中、自分の吐いた白いもやもやが消えていくのをなんとなく長めているようだった。
国広はミルクパンに目を戻した。渦を描くお湯未満のものも、同じような白いもやもやを上に向かって送っていた。
シンクとガス台の上、国広の目の高さに一面横長に採られた窓の向こうには、東側の広場が広がっている。黒褐色の格子と擦りガラスの窓の向こうから、夜明け前の朝日が入ってくる。
日向はぬるま湯を溜めおわると、よいしょと床に引いたタオルの上にバケツを下ろし、踏み台を片付けた。ちらりと目をやると、彼のまろい頬に窓からの薄青い明るさを受けて産毛が光っていた。
再びふつふつ云ってきたミルクパンを火から上げて、着火つまみを戻し、ガス栓を上げる。先ほど少しだけお湯を入れて溶いた二つのマグカップに沸きたての熱湯を注ぎ入れる。
「できた」
「ありがとう。…そうだ、ちょっとまってね」
日向が食器棚の下段の引き戸を開けて、中の籠をごそごそとする。
刀剣寮には階段横などあちこちにこうした給湯室がある。どこも利用は自由だが、管理はその最寄りの区画の男士が行う。自分の区画の給湯室には各自備蓄籠をおいてもいいことになっているので、この区画は日向達の管理なのだろう。
「はい、おすそわけ。よかったら」
引き戸を戻した日向はそういうと、テーブルへ出した小皿2つへ中身をそれぞれに3枚ずつ並べた。
「バターの香りがしっかりしておいしいよ」
「…ありがとう」
日向は笑顔で返事をしてみせると、ぬるま湯のバケツを椅子の下に設置して、靴下を脱いだ小さな足をその中へ突っ込み、持ってきておいた文庫本を開いた。『朝が早い日は足湯をすると身体が温まってうまく動くんだって。』4日前、あまりに早く目が覚め、暖と水分を求めてなんとなく辿り着いた国広に、今と同じように足湯とゆず茶の用意をしていた日向は言った。そして国広の分のほうじ茶を作ってくれて、国広がカップに手をのばすのを確認すると今のようにバケツに裸足を突っ込み、ゆず茶を飲みながら文庫本をめくり始めた。国広はその様子に顔には出さなかったがとても驚いたのを覚えている。
刀剣男士としては顕現以後交流もなくほぼ初対面に近かったが、なんというか、結構自由な刀だ。だが勝手というわけではなくむしろこちらが気負わぬよう自然としていてくれるというか。その印象は三日月宗近や鶯丸のような古い刀の態度に近い。古刀連中からすれば新刀と分類される国広は若い部類だろう。だが見てみろ、俺だって長曽祢虎徹や和泉守兼定より古いぞ。だから、だからどうというわけではないが。だがそもそも刀剣男士の歳ってなんだ。顕現年数でいうなら日向はついこの間来たばかりなのにこんなにも国広より颯爽と気遣いをこなすし足湯なんてものも慣れたものだ。なんだ冬の朝に足湯って。俺なんて乾布摩擦しか知らないぞ。
また絶望の波がきてしまいそうになり、国広は取り分けられたクッキーの一つに手をのばす。
ぱし、と口で割ったクッキーは得も言われぬバターの香りを残してほろほろと崩れていった。
うまい。すごく。たぶん言った方がいい。だが日向は文庫に目を落としている。ページをめくった。呼びかけるタイミングがわからない。おれが、俺が写しなばかりに。

時刻虎三つ頃になると、日向はカップと小皿を軽く洗い、「御馳走様」と言いおいて朝餉当番へと向かっていった。

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(1)sample おわり
(2)ツヤツヤと邂逅 sample
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へし切長谷部が手入れ部屋に入ったとの一報に、清光は驚きつつその元へ急いだ。

手入れ部屋は転移門のある区画とほど近い回廊塀内に横並びに配置されている。
搬入口にもなる土間を通り、「一」の手入れ部屋を覗く。
「どうしたの、珍しいじゃん」
入室の声をかけて襖をひくと、リクライニング機能のついたベッドを起こして座り、奥のポッドで本体の修復を受ける長谷部が「加州か」と言った。
サイドモニタを流れる進行ログをみるに、幸い左腕が折れたのみの軽傷で済んだらしい。
「稽古をつけてくれと言われたので気晴らしがてら揉んでやっただけだ」
「舐めてかかったら揉まれたわけね。えー?相手、誰?長谷部が見誤るとか珍しいね」
憮然とした表情の長谷部が面白くてニヤついてしまう。
長谷部はふん、と鼻を鳴らす。
「長義だ。山姥切長義。あいつ、何が初心者だ。絡め手使ってくる初心者がいるか」
訊けば、最後の最後、押し負けて体勢を崩したところへ長谷部が止めに振り下ろした瞬間、それを狙って木刀ごと顔面を蹴り上げて反動で身を起こし、そのまま長谷部の身体に組み付き体重をかけて叩きつけたという。受け身を取り損ねた長谷部は左腕を下敷きに倒れ、無残にもそれはぽっきりと折れてしまったのだった。
清光はへぇ、と感嘆の声を漏らした。
「強いんだ?」
「まあ……。奴の場合、練度は関係ないな。実力を正しく量って咄嗟の判断が早く、かつ粘り勝ちするタイプだ。どこの隊でも使える。あの性質だけが厄介だな」
「で、その長義はどこいっちゃったのさ」
「はしゃぎすぎて疲れたとか言ったから、部屋で休んでおけと伝えている。俺の手入れが終わるまでな」
たしか今日は、長谷部と共に帳簿の整理に取り組んでいた筈だ。全体の当番ではなく事務方の仕事で、それも今は立て込んだものはないと記憶している。だからこそ長谷部も、久しぶりに鎧までつけて相手をしたのだろう。
「じゃ、ちょうどいいじゃん?しばらく寝てな」
「おい!手入れ札を持ってきてくれたんじゃないのか」
「軽傷で札なんか出しませーん。最近長谷部も働きすぎだし、ちょうどいいんじゃない?お大事にー」
ひらひらと手を振って背を向ける。
この本丸のひと振り目のへし切長谷部は、最初期に顕現され早々に練度上限に至ってから今まで、修行には出ず、後続の刀剣男士たちの執務周りの師範役を担ってきた。
もちろん、はじめはそれによって長く主の近くに居られるからといった理由だったからだろうが、厳しくも折り目正しく真面目なこの打刀は、表にはされないが多くの者に慕われているし、本刀もその役回りが満更でもない様子だ。
そうはあっても、やはり時折は羽目を外せる仲間がいる方がいい。元来この刀は熱くなりやすい質でもあるのだ。
きっといい相性なのだろう。どちらにもいい影響になるといい。
清光は、襖に挟んであった謝罪の綴られたメモを傍らの机に置くと、そっと戸を締めた。

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(2)sample おわり
(3)ライトニング一文字 sample
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(3)sample おわり
(4)召しませ決算報告 sample
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(4)sample おわり
(5)四月孵化 sample
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(5)sample おわり

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