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刀剣男士の初恋についての話。
レンガの喫茶店と甘苦いケーキを添えて。
< 仕様 >
タイトル | 14時、フェネトラ |
ジャンル | 刀剣乱舞二次創作BL作品 |
CP | 般ちょぎ |
サイズ | B5 |
用紙 | (表紙)竹尾TS-9(タントセレクトシリーズ)100k N9(白) (本文)マガジンペーパーきなり0.12mm |
製本 | コピー本 (自家印刷+中綴じホチキス製本) |
価格 | 各 本体500円 |
本文小説 | shiori. |
表紙イラスト | shiori. |
装丁 | shiori. |
<アーカイブ>
2022.03. | イベント頒布分 | 初版 | あとがき・袋とじあり | ||||
2022.03. | 通販分 | 初版 | あとがき・袋とじあり | ||||
< 書影 >
< サンプル >
「純粋な親切のつもりだったんだがなあ」 後日、大般若長光はそう言って頬を掻いた。 「入りづらくて迷っているのかと思ったんだ。俺としては同じ長船の流れを持つ後輩刀が自分のお気に入りに興味を持っているようだったから、ついお節介をしてしまったと言った程度の事だったんだが、そんな風に思われていたとは」 「思うに、貴方はそういうのが“板につきすぎる”のでは無いかな」 「じゃ、互いに気をつけないとな」 深く沈むクッションのソファに身を預けて互いに笑った。 店の前で声をかけられた数日後、長義はレンガの喫茶店の扉を開いていた。 アプローチに投影された案内用ARが無機質に来店への挨拶を述べる。 その奥のスタンドでは店員が恭しい手つきでフラスコを拭っている。 大きな任務のない平日ということもあり、店内は2組ほど人間の客が寛いでいた。 外観から大きな空間を想像していた店内は、アンティークの調度品と観葉植物が丁寧に詰め込まれたこじんまりとした様子だった。 カウンターは無く、少しずつ色や形の違うカウチソファとテーブルが12席。入口から遠い窓際に沿った3ヶ所は壁を凹ませたような造形でいて、ちょっとした小部屋のようになっている。 店内に満ちるコーヒーと古い木の香り。流れる音楽は本のページをめくるそれよりも微かで控え目だ。 長義は店の奥にその姿を認め、纏った外套の留め具を外し、奥へと進んだ。 「ここに座っても?」 銀色の長い髪に葡萄茶のウイングカラー・シャツ、ピンストライプの走るダークグレーのスーツを纏ったその男は、現れた長義にその切れ長の目を見張り、瞬きをした。 「驚いた。お前さん、この間の?」 「ああ。この間はどうも」 大般若が身を正すのを見て、長義は手前のカウチに腰を下ろした。 すっきりとした細身のスーツの彼はそれでも決して小柄では無い。レトロな天鵞絨のソファは立派だが、太刀の刀剣男士の体躯は僅かばかり持て余し気味に見えた。 「いい店だね。先日素直に誘われておけば良かった」 「お使いは無事に済んだかい?」 「ああ。だからその駄賃でコーヒーでも飲もうかと思ってね」 にこりと笑うと、彼も金色のマスク越しに眉を上げて応えた。 組み直された長い節立った指の間に、彼のシャツと揃いの色の革製のブックカバーが挟まれている。 「それは?」 「江戸の街を舞台にした捕物の話さね。お前さんも本を読むのかい?この間古本屋の紙袋をもっていただろう」 「これのことかな。著名な童話脚本家が手がけた長編の空想小説だよ」 表紙を見せると大般若は「いいね」と言った。 そうしておもむろに目線を落とし、自分の本のページに指をかけた。 あまり長話をする質ではないのかもしれない。特に追い払われなかったのだから、引き続きこの場に居ることを許されたということなのだろうが。 長義としては少なからず縁のある刀だから、もう少し言葉を交わすもいいかと思っていたところだったが、すでに文字の世界に戻っていった風の表情を見やり、己も運ばれてきたばかりのコーヒーに口をつけ、持ってきた本を開いた。 窓を飾る厚めのカーテンは外からの日差しをちょうど良く陰らせページを手繰る手を照らす。 卵色の本紙にレースカーテン越しの陰翳が程よく架かる。 深呼吸すると木とコーヒーと、古い調度品の甘い香りが胸を満たす。 そうしてまた文字をたどって物語に没頭する。 時折、彼の指先がページをはぐる音が聞こえる。
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