attention: 黒バス 赤×黒 ケモ化
ユシロ名義のアカウントで掲載しているものです。(Pixiv=6661908)

 


奇麗な鱗

│2013 赤黒
 水色の人魚について書いた赤い髪の青年のBLOG。

□/23 2:30

長らく放置していたこのblogも、今日からまた更新していこうと思う。
と、いうのも、これまでさして取り上げて書くことがなかったのが、状況が変わったからとでも言おうか。

さて、状況、というのも、だ。

先週のことになるが、俺は仕事の関係でとある海際の町に訪れた。
小さな町ではあるが古い町並みと港町ならではの豊かな活気が情緒を感じさせる美しい町だった。
観光もかねてその町の旅館に一泊した訳だが、一日目の夜、ふいに夜の浜辺を散歩しに出た俺はとても面白いものを見つけることができたのだ。

何かって?

人魚だよ、人魚。

【 奇麗な鱗 】


まず、人魚、と言ったのは冗談でも何でもない。

いや、信じる信じないは重要ではないな。とにかく夜の海で俺は人魚に出会ったのだった。
満月の綺麗な夜だった。
というと出来すぎかもしれないが、その明かりのおかげで俺はそれを見つけることができたのだから強ち誇張ではないだろう。
俺は砂浜を経て岩場の手前まで歩いていた。さあ引き返そうとした時のことだった。
きらきらとつやめく光が見えた。続いてそれが鱗だという事に気づいた。
そしてそれが、ガラスのような透明度をもつ鱗の、魚の尾だと分かった。
海から覗いた岩の塊に挟まるようにしてみえたそれはピクリとも動かず、だが異質な存在感を放っていた。
見たこともないその色と形に、そしてただの魚というには大きなそれに、俺は好奇心を抑えきれずに近づいた。
月の明りのせいで寄せる波が黒く不気味に見えたが、構わずザブザブ進んでいった。

波打ち際から2,3m程の位置だが、波に隠れた岩や海藻が邪魔をしてようやくその鱗の元へたどり着いた。
二つの岩のあいだに、ちょうど海に頭を突っ込む形で尾が挟まっている。
人は得体の知れないものを見て、普通は触ろうとしない、いや、近づきもしない。
怖いもの知らず、というわけではないが、なぜかそういった行動に出てしまったのだからあとはこうするしかあるまい。

俺はまず、その鱗に手を伸ばしてみた。手のひらでぺったり触ってみるが、不思議な生暖かさがあるのみでその(おそらく)動物は身じろぎひとつしない。
つづいて、これは今考えると本当に自分の勇気をたたえてやりたいくらいだ。その鱗はなぜか俺に危害を加えるものだとは思えなかったのだ。俺はその生き物を、岩の隙間から除いてやろうと思った。

腐敗していたりヌルついていたりすれば辞退したいところだが不自然にも見えるほどその鱗は美しかったものだから、迷わず俺はその尾を抱え込み、引っかかっていた岩から外すように引っ張ってやった。
ずっしりとした、だが持てない重さではない。頭部はまだ黒い水の中だ。

少々躊躇ったが、それをえいとばかりに抱え上げた。
すると、なんと、鱗につづいて人間の胸が、そして、まさかとは思ったが人間の頭部が現れたのだ。

思わず取り落としそうになったが、がくんと首が落ちたのを見て、慌てて引き上げる。
妙な気分だった。
ありえないものを目にしてしまったその時、不気味だとかそんなものよりそれから目が離せなくなるのだと思った。
上半身は恥骨のあたりから徐々に鱗が減り胸から上は完全に人間のそれだった。
腕や頬には時折鱗状に肌が凹んでいるのが見受けられたが、瞼を伏せたその顔はあどけなさを残した少年に見えた。
ぐっしょりと濡れた髪は随分と薄い色合いをしていて、肌はそれよりもっと白い。
冷たい水に浸かっていたのにもかかわらず、僅かに開いた唇は健康そうな肉色をしている。
一先ず、死体であったという可能性はなさそうだ。

俺はそれを抱えたまま、とりあえずは浜まで上がろう、と引き返すことにした。
両腕に鱗を抱えて、慎重にザブザブと波をかき分ける。この時期には少々キツイ。
人よりパワーやスタミナもあるつもりだったが、踏み込んだ砂がズルリと足を滑らせた。
間一髪海にダイブはまぬがれたがしかし、抱えていた手がツルッと鱗の上を滑り、慌ててとっさに指先に力をいれた。
指が何かにするりと飲み込まれたかに思った、その瞬間―――

「う……えあッ!?」
「!?」

突然彼が悲鳴を上げ、身を跳ね上げた。

こうして、俺は(仮称)人魚と出会ったのだ。

どうだろう、つい先日の事とは言え、思い出しながら弱冠表現を飾りながらだが書き下ろしてみた。
嘘だと思うも信じるも好きにするといい。
これを読んだ方の暇つぶしになれたなら本望だよ。
すぐにとは俺も忙しい身なので無理だが、このつづきはいずれまた書かせてもらうことにする。

さて、夜も深いし彼が駄々をこねる前に寝るとするよ。おやすみ。

(つづく)