attention: 黒バス 赤×黒 ケモ化
ユシロ名義のアカウントで掲載しているものです。(Pixiv=6661908)

 


はこにわ。

│2013 赤黒

テツヤは征十郎くんと一緒に暮らす黒猫だ。
(暇ですね…)
くあ、とあくびをして、またしっぽに顔をうずめた。
平日の昼間のあいだはどこか出かけてしまう征十郎くんは、まだもう少ししないと帰ってこない。
彼の家族は僕を可愛いとは言ってくれるがあいにく猫アレルギーのため、僕は征十郎くんの部屋に隔離されるような形でこの家にお世話になっている。
隔離、といっても彼の部屋は小さな猫が過ごすには十分すぎるほどなので、退屈以外のほとんどはこの中で事足りる。
もっとも、まだ意識の伴わない仔猫の頃からこの部屋にはお世話になっているのでほかの場所での生き方などわからないのでけど。
全身黒い毛並みに水色の目と長い尻尾。珍しい猫でもなければオス猫のくせに体も小さいので本当に自慢できるようなペットではないけれど、彼は僕という猫を特におとなしいところと小さいところ、そしてこの目を褒めてくれるものだから、本当に優しいご主人だ。
「おやテツヤ、そんなところにいたのか」
不意に声が聞こえたので首を上げると、深い赤い目の彼が表情を柔らかくした。
大きくあくびと伸びをして本棚の上から飛び降りた。首輪が緩んでいたので鈴がチリチリンと音を立てた。
征十郎くんはもう着替えてしまったあとだったようで、僕はずいぶん深く眠っていたのだなと思った。
かっちりした服装の時は近寄ると主に僕の毛なんかがついてしまうのを彼の母親が嫌がることを知ったのでまとわりつかないようしているが、家でくつろぐ時の格好に戻った彼は擦り寄ってもいいのだ。ラフなジーンズとシャツに着替えた彼は肩のあたりも落ちて少し小さく見えるのが僕はこっそり好きだったりする。
構ってくれるようなので彼の足にトンと体を寄せてみた。
(蛇足だが、彼は裸足で猫の毛を撫ぜるのがなんとも言えないのだとこの間部屋に招いた友人達に笑って言っていたけど、僕は征十郎くんにそんなことをされた覚えがない。寝ているあいだにされたのか、はたまた彼の日常の中でほかに裸足で猫に触れる機会があるのだろうか。)
猫は気まぐれだとか人にはなつかないとか、人にもいろいろあるのと同じで猫それぞれ。
現に僕は征十郎くんとこうして触れ合える時が一番穏やかで幸せに感じるのだから、一概にしてはいけない。
まあ、僕みたいにほかの猫と会う機会がなければこの目に映るのは征十郎くんただひとりなわけで。
僕を抱き上げてベッドに寝そべった彼はひとしきり僕の耳や首の毛や脇の下の毛皮なんかを揉み上げるものだから、くすぐったくて喉をゴロゴロさせた。
「テツヤの毛皮は綺麗だね」
そりゃあ毎日欠かさず日向ぼっこしてるんで。それに、そうやって君がお腹に鼻をうずめてくるから念入りに手入れしているんですよ。
とはまあ伝えられるわけもないので、僕はしっぽで征十郎くんの頬をひと撫でしてやった。
征十郎くんが本当に愛おしいといった目で僕を見てくれるもんだから僕も動物ながらにこうして君を愛おしいと思えるんですよと、伝わらない気持ちも一緒にこめて。
「さて、僕は課題をするからテツヤは先に寝ておいで。」
そう言って僕の頭を一撫でして征十郎くんはベッドを降りた。
凹んだ毛布の上に丸くなって、ゆるゆるとさそう眠気に僕は一つ大きなあくびをして毛皮に頭を埋めた。

そしていつまでも、そう、永遠にこんな時間が続いてしまえばいいと、猫だてらに思ってしまうのだ。


end.

幸せな猫の話。
この一ヶ月後、征十郎くんが締め忘れた窓から外に出てみた黒子猫くんはうっかり車に轢かれて死んでしまうわけです。
征十郎くんかわいそう。